産経アプリスタ

ピックアップ

電子書籍の充実、小説投稿サイトの活況、何でもありの電撃文庫…ライトノベルの今とこれから
エンタメ

スマホで読みたい話題のラノベ 番外編

電子書籍の充実、小説投稿サイトの活況、何でもありの電撃文庫…ライトノベルの今とこれから

 『スマホで読みたい話題のラノベ』というタイトルで、1年7カ月にわたって82冊のライトノベルを紹介してきました。毎週1冊を取り上げても平気どころか、1日1冊でも足りないくらい、ライトノベルやそれに近い雰囲気を持った本はたくさん刊行されています。ここでは連載のまとめとして、ライトノベルのそんな近況を紹介しながら、改めてライトノベルというもの面白さを訴えてみようと思います。

 『スマホで読みたい話題のラノベ』で紹介して来たのは、基本的にAmazonのKindleで読めるようになった作品でした。ここで分かったのが、文庫本として刊行されてもすぐには電子書籍にならない作品が多かった、ということです。

 新刊として手に取って読んで、これは面白いから来週にも紹介したいとなっても、Kindle版がリリースされるのは1カ月とか2カ月先といった感じ。そのため紹介するタイミングを逸してしまった作品がいくつかありました。

 最後に取り上げた『宝石商リチャード氏の謎鑑定』を書いた辻村七子さんには、デビュー作として時間ループSFの傑作とも言える『螺旋時空のラビリンス』があるのですが、これも文庫版とKindle版の刊行に間があって、紹介しそびれました。今もこうしたタイムラグはありますが、電子書籍の市場が持つポテンシャルに出版社も気付いてきたのでしょう。たいていのレーベルが1カ月後にはKindle版をはじめとした電子書籍を出して、そうしたニーズに応えようとしています。







 今年の2月15日にKADOKAWAから創刊された新レーベルの「ノベルゼロ」は、文庫版とKindle版が同時に出ました。2013年に亡くなられたヤマグチノボルさんが、完結を願って残した構想を元に、匿名の誰かによって〈ヤマグチノボル〉名義で書き継がれた『ゼロの使い魔21 〈六千年の真実〉』も、文庫版と電子書籍版が同時発売されました。







 これには前巻の刊行から4年を待ったファン、そして作者の不在でもう読めないのかと落胆していたファンは大喜び。版元のMF文庫Jでは作品の継続を盛り上げようと、3月3日までの期間限定で、「ゼロの使い魔」シリーズから1巻の3章までと、2巻から20巻までのすべての1章をまとめた”特盛り立ち読み冊子”を電子書籍で配信しました。

 紙では作るのも大変なこうした冊子も、電子書籍なら編集次第でいくらでも作って配信できます。サービスやプロモーションとしての電子書籍の活用はこれからも増えそうですし、実際、2016年1月からテレビアニメーションが放送されて大人気となっている暁なつめさん「この素晴らしい世界に祝福を!」シリーズは、文庫版におまけの短編が加えられた電子特別版が出ています。







 アニメを見て原作に興味を持った人が、おまけに引かれて電子版を買ってしまう。そんな流れが定着すると、さらにさまざまな試みが電子書籍版では展開されそうです。

 新レーベルの方も、新創刊の流れがこの1年くらい続いています。『宝石商リチャード氏の謎鑑定』が入っていた集英社オレンジ文庫は創刊からほぼ1年。白川紺子さん『下鴨アンティーク』や梨沙さん『鍵屋甘味処改』、阿部暁子さん『鎌倉香房メモリーズ』といった具合に、何かのお店と謎解きを絡めて知識と喜びを与えてくれる、そんな物語が並んでもっぱら女性の読者層を獲得しているようです。











 対して2月に創刊された「ノベルゼロ」は、「大人になった、男たちへ」というキャッチフレーズで、中高生の頃からライトノベルを読んでいた男子が、大学生や社会人になっても読んで面白がれそうなエンターテインメント小説を、送り出そうとしているレーベルです。

 第1弾として「絶対城先輩の妖怪学講座」シリーズの峰守ひろかずさん、「女騎士さん、ジャスコ行こうよ」シリーズの伊藤ヒロさんが合作して、戦後まもない日本で起こる奇妙な事件を、紙芝居書きの男たちが解決する『S20/戦後トウキョウ退魔録』や、「神様のメモ帳」シリーズで知られる杉井光さんによる、書店の店長にしてトラブルシューターの男が活躍する『ブックマートの金狼』などを刊行しました。







 青少年が異世界に転生して大活躍したり、学園を舞台にラブコメディが繰り広げられたりするような、ティーンに人気の設定とは少し違った、ハードでエキサイティングな物語を、「ノベルゼロ」では送り出そうとしているようです。

 もちろん異世界ファンタジーもラブコメも、お店が舞台のライトミステリーも、ライトノベルではまだまだ人気があるカテゴリーです。「小説家になろう」や「エブリスタ」といった小説投稿サイトで人気を得て、出版社から書籍として刊行される作品も少なからず出ています。

 最近ではKADOKAWAとはてなが共同で、「カクヨム」という小説投稿サイトをオープンしました。そこではファンタジー、SF、ミステリー、現代アクションといったカテゴリーでのオリジナル作品だけでなく、有名なライトノベル作品の2次創作も投稿できるようになっています。

 こうした小説投稿サイトで認められた新しい書き手や作品が、文庫や書籍になったり電子書籍として流通したりと、さまざまなプラットフォームから世の中に出ていきます。一方で、出版社も昔ながらの新人賞を行って、意欲のある書き手を募っています。

 ライトノベルのトップレーベルになった電撃文庫から、第22回電撃小説大賞を受賞して2月に刊行された松村涼哉さんの『ただ、それだけでよかったんです』は、異世界ファンタジーでも学園ラブコメでもなく、中学校で起こったいじめや自殺といったシリアスな問題を扱い、そこに逆転のドラマを仕込んだダークな青春小説になっています。







 電撃文庫らしからぬ作品といった声も多くありますが、どうやらそうではないようです。このレーベルで鎌池和馬さんの「とある魔術の禁書目録」シリーズや、川原礫さん「ソードアート・オンライン」シリーズといった超人気作品を手掛け、担当作家の累計刊行部数が6000万部に達する名物編集者の三木一馬さんが、編集の極意を記した自著に付けた『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録』というタイトルが、電撃文庫のひとつのスタンスを現しています。







 つまりは何でもありということです。流行りや売れ行きよりも、編集者たちの感性で、面白いと思えば、暗い青春ストーリーでも時代がかったスペースオペラでも何でも出します。トップレーベルだからこその余裕とも言えますが、これは他のレーベルでも気にして欲しい部分です。

 編集者も読者も、ライトノベルはこうあらねばといった固定観念に縛られず、面白いと思えばそれを出して作家を育て、面白そうだと思えば積極的に手に取っていく。そうした取り組みから意外な書き手が生まれ、新しい読者も生まれて次の時代を担っていくような連鎖が続く限り、ライトノベルの世界は沈滞することも、領域が狭まるようなことも起こりません。面白いエンターテインメントとして、ライトノベルはいつまでも続くことでしょう。


谷口 隆一

産経編集センター企画部記者。フジサンケイビジネスアイ、サンケイエクスプレスなどでアニメーションやコミック、ゲームといったポップカルチャー関連分野を取材し、記事を執筆して来た。SFやミステリー、ライトノベルと呼ばれる若い世代に向けた小説分野について、雑誌などで書評を行っている。


エンタメの新着記事

> 新着記事をもっとみる

イチ押しアプリ

> アプリ一覧

人気記事ランキング

> 10位までみる

無料アプリ・セール情報

話題のキーワード

連載・まとめ

> 連載・まとめ一覧